攻める日弁連、守る全銀協~「銀行カードローン」バトルを読み解く

金融庁が銀行カードローンの調査結果を公表するなど、この問題は新たな段階に入りました。

金融業界で様々な発言が出ていますが、なかでも全国銀行協会会長のコメントは、金融業界における総本山のトップの発言として重みがあります。

今回は日弁連と全銀協の発言内容を読み解きます。

日本弁護士連合会は昨年10月、「銀行等による過剰貸付の防止を求める意見書」(以下、「意見書」)を全国銀行協会に提出しました。

これに対して、全銀協の國部毅会長(三井住友銀行頭取、現在は三井住友フィナンシャルグループ社長)は同年12月、定例会見で銀行カードローンについて、会長として初めて言及しました。

ちなみに、全銀協の会長会見は毎月1回、東京・大手町の銀行会館で日刊紙記者などとの間で質疑応答を行う記者会見です。

銀行カードローンにおける日弁連と全銀協のなどの動き

年月日 日本弁護士連合会 全国銀行協会 その他
2016年9月16日 「銀行等による過剰貸付の防止を求める意見書」を取りまとめる
10月12日 「意見書」を金融庁、全銀協に提出
12月15日 國部毅会長、定例会見で銀行ローン問題に言及。「健全な消費者金融市場の形成に向けて、各行が適切な業務運営をするよう点検していく必要がある」
2017年2月16日 「消費者ローンの広告は貸金業法の趣旨を踏まえて適切な表示に努めるよう各行に周知している」(定例会見で國部会長)
3月16日 「銀行による消費者向け貸付けに係る申し合わせ」を公表
3月28日  日本共産党の議員が参院決算委員会で、銀行の個人向けカードローンに対し、生活苦の国民が多重債務に陥る危険を告発。麻生太郎財務相は「貸金業者にかわって大銀行が同じ手口でやっている」「行き過ぎに危惧している」などと語った。
4月3日 小山田隆会長、定例会見で「過剰な融資にならないように、銀行自らがしっかりと確認、チェックをしていくということだ」などと語る。
4月21日 全銀協の「申し合わせ」に対する会長声明を公表。各行の自主規制による対応だけでは不十分と批判、貸金業者の保証による銀行カードローンを総量規制の対象にする貸金業法の改正を要望。
5月18日 小山田会長、定例会見で「三菱東京UFJ銀行では、年収の3分の1を超えた借り入れのほうが(年収3分の1以下の借り入れに比べて)貸倒れ率が低いとのデータもある」などとコメント。
6月12日 「銀行カードローンに関する全銀協の取組みについて」を公表
6月14日 日本貸金業協会・山下一会長、「総量規制を見直すべき」との見解を示す。
6月15日 平野信行会長、定例会見で「貸金業者と同じように、(銀行にも総量規制を)課すのは適当ではない」などと発言。  第二地方銀行協会・黒本淳之介会長(栃木銀行頭取)は「懸念されているような、多重債務者の抑制に努めたい」と語り、会員銀行に早期対応を求める考えを示す。

出所:全国銀行協会Webサイトなどをもとに筆者作成

「今月で貸金業法の成立から10年を迎える。銀行のカードローンが伸びており、日弁連などからは貸金業法で規制している年収の3分の1を大幅に上回る貸付など問題点も報告されている。

全銀協としての対応をとる必要があると考えるか」との記者の質問に対し、こう答えました。

「私ども(注:三井住友銀行)もそうだが、グループ内の消費者金融会社と連携するなど、業務戦略に応じた体制をとっている。

銀行の貸付スタンスなどについて指摘を受けているケースも出てきているが、我々としては、健全な消費者金融市場の形成に向けて、今一度、各行が適切な業務運営を行っているか自ら点検していく必要があると考えている」

ここでは、会長の口から「日弁連」も「意見書」も出てきませんでした。しかし、今年2月の会見では雰囲気が変わります。

会見が開かれた前の週に日銀の統計が発表され、2016年末時点の銀行カードローン残高が5兆4,000億円と18年ぶりの高水準になったことが明るみに出たからでしょう。

國部会長は、「現状の銀行カードローンの取り組みを適切だと捉えているか、あるいは過剰融資などの問題があると考えているか。

また、全銀協としての対応が何か必要と考えているか」との質問に対して、こう述べました。

「例えば日本弁護士連合会から頂戴した意見書など、銀行の貸付スタンスについて指摘を頂戴しているケースもある。

カードローン業務に当たっては貸金業法の趣旨を十分理解しているが、今一度、金融庁の方針に則った適切な業務運営を行っているか点検することが重要だ。

全銀協としては、検討部会で銀行カードローンの広告宣伝を実施する場合には、貸金業法の趣旨を踏まえて適切な表示に努めるよう各行に周知している」

ここで初めて、日弁連からの意見書の存在を公式に認めたのです。そして、この会見からちょうど1か月後の3月16日、「銀行による消費者向け貸付けに係る申し合わせ」(以下、「申し合わせ」)を公表しました。

全銀協、日弁連に「申し合わせ」で回答

全銀協が「申し合わせ」に盛り込んだのは、銀行カードローンにおける広告の適正化と審査体制の整備の2点です。

日弁連が最も改善を求めていた総量規制の導入については直接触れませんでした。「申し合わせ」を見てみましょう。

1.配慮に欠けた広告・宣伝の抑制

銀行カードローンに関する広告・宣伝を実施する場合、貸金業法の趣旨を踏まえて適切に表示するよう努める。

例えば、銀行カードローンが貸金業法による総量規制の対象外であることや、高額の借り入れでも年収証明書が不要であることを強調して過剰な借り入れとならないよう、配慮に欠けた表示を行わないよう努める。

また、広告・宣伝の中で顧客の過剰な借り入れに対して注意喚起して多重債務防止に努める。

2.健全な消費者金融市場の形成に向けた審査態勢等の整備

(1) 年収証明書などで顧客の収入状況や返済能力をより正確に把握することに努める。50万円超または他社借入総額100万円超は年収証明書が(貸金業法で)必要とされていることに留意する。

(2) 貸付審査は信用情報機関の情報活用など、自行以外での借り入れ状況も勘案して返済能力等を確認するよう努める。

(3) 信用保証会社との関係を定期的に分析・把握し、審査が適切か(信用保証会社と)連携していく。例えば、総量規制が多重債務の抑止になっている状況を踏まえ、信用保証会社と審査方針を協議するよう努める。

(4) 貸付け実施後においても、顧客の状況に応じて定期的に信用状況の変動の把握に努める。

日弁連、全銀協の「申し合わせ」に不満表明

申し合わせの後の3月28日、参院決算員会では銀行カードローン問題についての質疑応答がありました。

「多重債務の危険がある」との野党議員の質問に対して、麻生太郎財務大臣は、「貸金業者にかわって大銀行が同じ手口でやっている」「行き過ぎに危惧している」などと答え、銀行の立場がいよいよ悪化してきます。

しかし4月、小山田隆会長(三菱東京UFJ銀行頭取、現同行取締役)は「申し合わせ」に関して言及し、この問題について一定の回答を出したとの態度を示しました。

「先月、申し合わせを行った。顧客にとって過剰な貸出にならないようにするのが極めて大事なポイント。総量規制については、過剰な借り入れにならないよう、銀行自らがしっかりと確認、チェックをしていくということだ」

また、「3分の1を超える貸付が可能な状況は、やはり必要だと考えるか」との記者の質問には、「一律に、あるいは機械的にというところは、なかなか難しいのではないか」と述べるなど、総量規制導入に否定的でした。

こうした全銀協の姿勢に対して、日弁連は批判します。4月21日に「全国銀行協会の『銀行による消費者向け貸付けに係る申し合わせ』を踏まえての会長声明」(以下、「会長声明」)を公表したのです。「会長声明」を見てみましょう。

「申し合わせの内容は抽象的で、『個人の年収に対する借入額の比率を意識した代弁率のコントロール』の具体的内容も曖昧だ。これでは過剰融資抑制のための具体的かつ客観的な基準としての効果は期待できない」

「『意見書』で述べたとおり、貸金業法は年収3分の1超の貸付を原則として禁止しているので、貸金業法の趣旨を踏まえ、銀行も貸金業者の保証が付いた銀行カードローンについて同水準(注:総量規制)の審査態勢を構築すべきだ」

「当連合会は、改めて、銀行に対して貸金業法にある総量規制を遵守し、貸金業法の趣旨を踏まえた適切な審査態勢の構築を求める。

また、銀行の自主規制対応だけでは不十分。金融庁は貸金業法を改正し、貸金業者の保証付き銀行のカードローンは総量規制の対象にすべきである」

全銀協会長、年収3分の一借り入れの人のほうが低リスクと発言!

全銀協の小山田会長は5月18日、日弁連の「会長声明」を意識してか、定例会見では「取り組み状況を少し丁寧に説明したい」と述べました。

全銀協内の部会で広告規制や審査体制などについて検討をしており、取り組み状況についてアンケートも実施していると説明しました。そのなかで、小山田会長は、注目すべき発言をします。

「三菱東京UFJ銀行でも、年収の3分の1を超えるところに一定の貸出上限を設けているが、これは他社借り入れの総額。グループの信用保証会社アコムから情報を得ながら審査している。

年収の3分の1を超えた借り入れの貸倒れ率と、それを超えた上限額まで借りた場合の貸倒れ率を比較すると、むしろ3分の1超を借りた人のほうが貸倒れ率は低いとのデータもある」

国内民間銀行トップの三菱東京UFJ銀行のカードローンで、年収の3分の一を超えて貸している人の年収は、いくらなのかなど、その実態は窺うべくもありません。

年収600万円の人が2人いるとします。一方は300万円を借り、一方は100万円を借りる。300万円を借りている人のほうが、きちんと返済している、ということになります。

普通に考えれば、年収に占める借り入れの額が多い人ほど、返済に困る確率は高くなるのではないでしょうか。

小山田会長の発言は、多く借りている人のほうがきちんと返していると言うに等しく、驚くべきものです。

しかし、このコメントはその後、マスコミの注目を浴びることはありませんでした。そのことも不思議でなりません。

全銀協、「取り組み」公表、金融庁はアンケート結果を開示

6月12日、小山田会長が5月の会見で触れていたアンケート調査の結果が明らかになりました。

広告規制については、「総量規制の対象外」と宣伝していた12の銀行は、見直しを含めて今後は表示しない方向にあるとの結果になっています。

また、「年収証明書不要」の文言は、表示していた銀行が75%の92行だったものが、その後は「表示しない」が95%となりました。

再三にわたる批判に対して、銀行も広告宣伝の見直しを余儀なくされた、というところでしょうか。

「年収証明書不要」を表示した広告の有無 (単位:行、%)

出所:全国銀行協会「銀行カードローンに関する全銀協の取組みについて」をもとに筆者作成

金融庁も同じ日に開いた「多重債務問題などに関する懇談会」で、昨年11月に20歳から70歳代の男女約4400人を対象に実施したインターネットでのアンケート調査の結果を明らかにしました。

それによると、銀行カードローンの利用目的は「生活費の補填」の割合が42%と最多。「クレジットカードの支払資金の補てん」が25%、「ほしいものを買うため」が24%と続きます。

借入残高は10万円までが30%と最も多く、次いで31万~50万円が21%。利用者の年収は300万円以下が38%と最も多く、収入のない人も6%弱となっています。

年金生活者や主婦など定収入のない人など、低所得者層の利用が多いことがうかがえる結果になっています。

全銀協の「取り組み」や金融庁のアンケート結果などに対して、日弁連がどう反応するのか注目されます。

全銀協だけでなく、地方銀行や第二地銀の業界トップの発言も出ています。他方、貸金業法を遵守する貸金業界は総量規制の見直しを求めています。

銀行カードローン問題は、今後しばらく議論が続きそうです。

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