総量規制は2回あった

総量規制という言葉を聞いたことのある人は、多いのではないでしょうか。2006年に成立し翌年から本格的に施行された貸金業法は、消費者金融における「3悪」(高金利・過剰融資・過剰取り立て)をなくすために制定された法律でした。

このうち、過剰融資を排除するために定められたのが、総量規制です。1人当たりに貸し出す総額を年収の3分の一以内に制限するものですが、消費者金融業界の歴史には、もうひとつの総量規制があったことを知る人は、いまでは少なくなりました。今回はその話から。

銀行によるノンバンク融資の総量規制

バブル景気が始まった1980年代中盤、いわゆる「サラリーマンローン」や「街(まち)金」業者から金を借りた利用者が返済困難に陥り、多重債務を抱えて自殺者も出るなど社会問題化しました。

国は1983年に貸金業規制法を制定し、貸金業者の登録と上部団体の加入を義務付けて業界正常化を図りました。

一方で、「貸金業者に融資をしている銀行も悪い」との銀行批判が強くなり、大蔵省(現・金融庁)は、都市銀行や地方銀行に対して貸金業者への融資自粛を促すため、銀行局長の名で通達を出しました。

これが、当局によるノンバンク融資の総量規制です。融資自粛といっても、銀行局長の命令ですから、銀行は一も二もなく貸金業者への貸し付けをストップしました。

当時、大手消費者金融の一角だったプロミス(現・SMBCコンシューマーファイナンス)はこの時、黒字経営が続いていたにもかかわらず、銀行からの融資が途絶えたために、黒字倒産の危機に直面しました。

それを救ったのが、日本生命・住友生命・住友信託銀行・日本長期信用銀行(いずれも社名は当時)などで作った協調融資団でした。

なぜ生命保険や信託銀行、長期信用銀行がプロミスに融資できたかといえば、「銀行ではない」からです。

前述した銀行局長通達は、「貸金業者に対する銀行の融資を自粛する」もので、生保や信託、長信銀は通達の対象外だったのです。

嘘のようなホントのことです。

アコムの大口融資先のひとつは三菱信託銀行ですし、アイフルはいまもなお住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)がメインバンク、準メインは、あおぞら銀行(旧日本債券信用銀行)。

武富士だけはメインバンクを持っていませんでしたが、それでも過去には安田信託銀行(現・みずほ信託銀行)からの融資がありました。

そのころ、金融業界紙で地銀と相互銀行(第二地銀)の担当記者だった私は、ノンバンク融資規制をテーマに取材を展開していました。

ある日、業界トップの兵庫相互銀行(1995年破たん、現・みなと銀行)の東京事務所に取材に向かいました。

東京支店の2階にある応接で待っていると、事務所の所長は、入ってくるなり開口一番、こう叫んだのを今でもはっきりと覚えています。

「うちは、サラ金には一切貸してません!」

シラを切る、とはこういうことを指すのでしょう。数日後、日刊紙でこの銀行のノンバンク融資の融資金額が報道されました。

銀行の消費者ローンに対する風当たりが強まっている

昨年9月、日本弁護士連合会は「銀行等による過剰貸付の防止を求める意見書」を公表しました。

銀行は個人向けカードローンで過剰に貸し付けており、多重債務を生んでいる、として日弁連に寄せられた債務整理相談をもとに、銀行が返済能力を超えて消費者ローンを貸し付けている実態を明らかにしました。

そして、「適用対象外の貸金業法であっても、法の趣旨を踏まえて銀行は総量規制を厳守するべき」として、銀行にも総量規制を盛り込んだ貸金業法を適用するよう規制強化を求めたのです。

貸金業法の制定で個人ローンの上限金利が利息制限法に統一されたことで、貸金業者と銀行は同じ土俵で個人ローンを販売することになりました。

しかし、貸金業者は年収の3分の一以内という融資限度額の制限があるのに対し、貸金業法の適用対象外である銀行は、極論すれば、いくらでも自由に貸すことができるのです。

国内の個人ローン市場は現在9兆円規模。3年前から総額5兆円の銀行業界が消費者金融を含むノンバンク業界の4兆円を凌いでおり、過払い金請求で苦しむノンバンクを尻目に、メガバンクや地銀などが貸付残高を伸ばしています。

日弁連の声明のほか、4月にはNHKの番組「クローズアップ現代プラス」でも、銀行カードローンの過剰融資問題が取り上げられました。

今年は貸金業法の本格施行から10年が経過したことで、マスコミ各社は消費者ローンに対する報道に力を入れています。

また、「NHKが2月から取材を進めていたことで、銀行やノンバンクは戦々恐々としていた」(消費者金融業界関係者)との情報があります。

というのも、銀行のカードローンは、消費者金融や信販・クレジットカード会社が融資の審査から万が一の返済困難時の弁済など一切を保証しているからです。

銀行は、企業融資の伸び悩みをカードローンの収益で補い、ノンバンクは信用保証業務を扱って手数料を稼いでいるという、「Win Win」の関係にあるのです。

そうした関係が明らかになるのは、銀行もノンバンクも、必ずしも喜ばしくないのでしょう。

日本弁護士連合会は貸金業法改正を要望

銀行カードローンに対する風当たりが強まったため全国銀行協会は3月、カードローンの過剰融資防止に関して、利用者の返済能力を正確に把握して融資を実行するよう申し合わせたとアナウンスしました。

日弁連は4月、この申し合わせについて「内容は抽象的で、過剰融資抑制の効果は期待できない」と批判。銀行の自主規制だけでなく、行政サイドが過剰融資について強い監督指導を行うよう、声明を出しました。

日弁連は、当局の取り締まりだけでなく、ノンバンクが信用保証をしている銀行カードローンを総量規制の対象にするよう、貸金業法の改正を求めています。

日弁連は、貸金業界の「3悪」について最も批判的な活動を展開してきた歴史を持っており、貸金業法の制定は活動の集大成、との自負があります。

それだけに、貸金業法をあざ笑うかのような銀行の融資攻勢に我慢がならないのかもしれません。金融庁もこの問題について、実態調査を行う方針を明らかにしていましたが、まだその結果は公表されていません。

1980年代の総量規制は、銀行によるノンバンク融資規制。2006年の総量規制は、ノンバンクによる利用者への融資規制。この違いをお分かりいただけたでしょうか。

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